ニコラさんたちの服を買いに行くのに、僕はついてかなくてもいいって言ってたでしょ?
だから僕たちはお水を汲み上げる魔道具を井戸につける為に、ここでストールさんたちとお別れする事になったんだ。
ただその時、ニコラさんたちが僕になんか言いたそうなお顔をしてたんだよね。
それを見た僕は、なんかあるの? って聞こうとしたんだけど、
「職人の方々もお待ちでしょう。お引止めして申し訳ありませんでした」
ストールさんがこう言って僕たちを送り出したもんだから、結局聞くことができなかったんだ。
う〜ん、何が言いたかったんだろう?
ニコラさんたちのお話は夜に宿屋さんで聞けばいいかって思った僕は、ロルフさんたちと一緒にお家の奥へ。
それでね、厨房まで行くとそこからお外へ出て、井戸の所まで行ったんだ。
そしたらそこには茶色の髪の毛の横っ側が白くなってきてるおっきなおじさんが待ってて、ロルフさんの顔を見るとたったったって走ってきてご挨拶したんだよ。
「お待ちしておりました、フランセン様。先ほど運び入れて頂いた魔道具の設置準備は、すでにできております」
僕たち、さっきまで入口んとこでストールさんとお話してたでしょ?
どうやら井戸のお水を汲み上げる魔道具は、その間にここでお仕事してた職人さんたちは運んでくれてたんだって。
だから後はくっつけて、ちゃんとお水が出るかどうか調べるだけなんだよって職人のおじさんが教えてくれたんだ。
「うむ。それでは取り付け作業に入ってもらえるかな」
「畏まりました」
職人のおじさんはロルフさんに解ったって返事をすると、近くにいた若い職人さんたちに始めるよぉって声を掛けたんだよ。
そしたらさ、その若い職人さんがなんかカチャカチャいってるおっきな皮袋を持って井戸に入ってっちゃったんだ。
「おじさん、あの人はなんで井戸の中に入ってったの?」
「ん? ああ、あれはな、今から入れる銅製のパイプを固定する作業をするために降りて行ったんだ」
それを聞いて、僕はびっくりしたんだ。
だって僕、お水を汲み上げるためのパイプは、ちゃんとお水の中に入ってれば上からぶら下げとくだけでもいいんだろうなぁって思ってたんだもん。
でもね、それを言うと職人のおじさんはニカッて笑いながら、この魔道具を衝けようとする人はみんなそう思ってるんだよって教えてくれたんだ。
「これが天然の井戸ならそれでもいいんだろうが、この街の井戸ではそういう訳にはいかないんだ」
「何でここの井戸じゃダメなの?」
「それは無、この街の井戸が人口の水路から水を汲み上げるようになっているからなんだ」
グランリルの村にあるのもそうなんだけど、普通の井戸はお水が出るとこまで掘って作るでしょ?
だから中のお水は湧き出てくるだけで、井戸の中を動いたりしないんだよね。
でもこのイーノックカウの井戸はそんな普通の井戸と違って、近くを流れてるおっきな川から地下水路を通って流れてくるお水を汲み上げるようになってるんだって。
だからちゃんと固定しとかないと、長い間使ってるうちに流れる力でパイプが曲がっちゃったり、魔道具につけてるところで折れちゃったりすることがあるらしいんだ。
「そっか。でも、なんでお水が流れるようになってるんだろう?」
「どういう事だ?」
「だって水路にいっぱいお水を入れたら、井戸の中までお水があがってくるでしょ? そしたら流れなくなるはずだもん」
「なるほど」
職人のおじさんはね、イーノックカウの井戸はそう言うもんだってずっと思ってたから、そんな事考えた事も無かったんだって。
だから僕のお話を聞いて、なんでなんだろうなぁって頭をこてんって倒したんだよ。
でもね、その答えは横で聞いてたお爺さん司祭様が教えてくれたんだ。
「それはじゃな、ルディーン君。そのようにすると場所によっては井戸の水が腐る可能性があるからなのだ」
「お水が悪くなっちゃうの?」
「うむ。村の井戸水は、夏でもとても冷たいであろう? しかしこの街の水は川から取っておるから、今のような季節だと温かくなってしまうのだ」
井戸ってね、普通はすっごく深くまで掘らないとお水が出てこないんだよね。
だからなのか、井戸の中のお水は夏でもつべたいし、冬でも凍ったりしないんだ。
でもイーノックカウの井戸は近くに流れてる川から取ったお水を、地下水道に通して井戸まで引いてるでしょ?
イーノックカウの中を通してから最後にはもういっぺん川に戻さないとダメだからって、あんまり深いとこに水路を作れなかったらしいんだよね。
だからあっつい季節になるとお水がぬるくなって悪くなりやすくなっちゃうし、逆にすっごく寒くなると凍っちゃうかもしれないんだって。
特に川から遠い所にあるお家や黒い石畳が敷いてある道の近くにあるお家だと井戸のお水がすっごくあったかくなるから、もしお水が流れてなかったらあっつい季節になると危なくって井戸のお水が使えなくなっちゃうんだ。
「その点、中の水を常に流しておけば腐る心配もないし、凍りにくくもなる。だからこのような都市にひかれている井戸用水路は常に水が流れるように作ってある事が多いのだ」
「なるほど、そのような事情で地下水路の中の水は常に流れているようになっているのですね。ありがとうございます、司祭様。勉強になりました」
「司祭様、ありがとう!」
お爺さん司祭様のお話を聞いて、職人のおじさんはお勉強になりましたって。
それに僕もこのお話を聞いて一つ賢くなったから、一緒になってありがとうしたんだよ。
そしたら司祭様はね、
「知識というものは一生の宝になるからのぉ、これからも解らぬことがあれば聞きに来るとよい」
そう言って僕の頭をなでながら、ほっほっほって笑ったんだ。
解って頂けているとは思いますが、最初の方でニコラさんたちが何か言いたそうにしていたのはストールさんのお勉強から助けて欲しかったのです。
でもまぁ、それをストールさんの前で言い出すなんてできるはずもないですから、表情だけで伝えようとしました。
伝わる訳、無いんですけどねw
さて、この世界にはピュリファイと言う水を浄化する魔法があります。
でも川から水を取り入れる場所だけならともかく、町全体を浄化するなんてできるはずないですよね。
それに水の温度変化が少ないほど地下深くに水路を作ろうと思うと、今度は排水するために大型の水を汲み上げる魔道具が必要になってしまいます。
そんなものを稼働させる魔力なんてありませんから、必然的に川の上流から水を引いて街を通してから下流で放流するという方法をとるしかないんですよ。
そう考えるとポンプで高い所に水を汲み上げてすべての世帯に水を供給している現代は、魔法世界よりはるかに便利な世界なんだなぁ。